パラアスリート
伊藤 智也(いとう・ともや)
[プロフィール]
1963年三重県出身。従業員200人を超える人材派遣会社を経営していたが、98年に多発性硬化症を発症。99年から車いす陸上競技を始め、2005年プロ車いすランナーに転向。以降、数多くの国際大会に出場し、60歳を超えても自己ベスト記録を更新するなど成長を続ける。バイエル薬品所属
― 厳しい練習や試合に向き合うために、日々心がけていることやモチベーションにしていることはありますか?
バイエル薬品に所属するプロアスリートとしての使命を果たすこと。つまり、勝利や自己ベスト更新を託してもらっていることに対して自身が応えていくこと、これこそが私の最大のモチベーションであると同時に、いつも応援してくださっている多くの方への期待に応えることが貢献につながると考えています。また、アスリートとして身体の維持向上やマシン(競技用車いす)の開発に携わってくれているプロフェッショナルたちと密にコミュニケーションをとり、切磋琢磨して互いを高め合う関係を築いています。
― バイエルミッション「Health for all, Hunger for none(すべてに人に健康を、飢餓をゼロに)」のもと推進するDE&Iの構成要素「多様性、公平性、包括性」は、現代社会のさまざまな場面においても議論されていますが、スポーツの実践の中でも感じ取ることがありますか?
プロアスリートとして自分に一体何ができるのかと考えたとき、私が競技に向き合うことが応援してくれる皆さんの「心のケア」にもなると信じたいです。人の数だけ正義や失敗があり、何が正しいということがない時代の中で、自分の必死な走りが、多様な考え方や生き方をもつ一人一人が自信を持って生きていくための背中を押す一助になればいいなと考えています。そう考えることは、私が走る意義にもなりますし、バイエルが掲げるミッションや指針にも沿うことになると思います。
― スポーツを通じて世界の舞台で活躍する中で、日本と海外で異なる、あるいは共通していると感じる点はありますか?
日本と海外で異なる点はあまり気にならないのですが、共通していると思うことは、世界の舞台でスタートラインに立つ各国の選手たちが互いをリスペクトし、隣にいる選手を勇気づけるような気持ちをもって戦っている点です。だからこそ、私自身も何度もその舞台に帰っていきたくなるのだと思います。
― 今後、スポーツをはじめさまざまなことに挑戦して夢を実現したいと思っている人たちに向け、メッセージをお願いします。
よく耳にする「失敗を恐れず前に進もう」という言葉は私の中では少し違っています。むしろ、「失敗を恐れる自分自身をきちんと受け入れていこう」と考えています。何かを始める前に失敗したときのことの想像をして、それを受け入れる覚悟を持って一歩を踏み出すということです。失敗の想像をするからこそ実際に起きたときに対応ができ、その困難を乗り越えられると思います。
小川 仁士(おがわ・ひとし)
[プロフィール]
1994年東京都出身。18歳の時にモトクロスのレース中に転倒し頚髄損傷の障害を負う。20歳の時、日本代表の島川選手に誘われ車いすラグビーチームのBLITZへ所属。持ち前のパワー・スピード・ボールコントロールを武器に成長し、多くの国際大会に出場。バイエル薬品所属
― どのようなことをモチベーションにして日々、トレーニングや練習をしていますか?
練習は量が大事だと思っています。量があってこその質だと考えているので、量だけは誰にも負けないようにトレーニングしてきました。私はインバウンドという最初にボールを投げる役割を担うこと多いのですが、練習を重ねることによってその距離が少しずつ伸びていくのを実感し、それが自信にもつながりました。最近の試合ではインバウンドミスをほぼしなかったので、自信が結果にもつながったと思います。つらい時こそ、そこを抜けたときに得られる大きな「成長」を実感できているので、その先を見据えること、また、妻と子どもの笑顔も日々の大きなモチベーションです。
― 「多様性、公平性、包括性」で構成されるDE&Iはバイエルミッション「Health for all, Hunger for none(すべてに人に健康を、飢餓をゼロに)」の重要な柱の一つですが、競技の中にもその要素はありますか?
車いすラグビーそのものがDE&Iの要素を多く含んでいると思います。車いすラグビーは、障がいの程度が異なる選手が共にプレーする、男女混合競技です。互いの特性を理解し、相手を思いやりながらプレーすることが勝利には不可欠で、ダイバーシティの大切さや魅力を体感するにはぴったりなスポーツです。車いすラグビーは障がい者だけのスポーツだと思われがちですが、車いすに乗れば誰でもプレーできますので、多くの人に体験してもらえるよう普及活動に力を入れたいですね。
― 世界でプレーする中で、日本と海外の違いを感じることはありますか?
海外のチームは、ここぞというときの集中力から出てくる雰囲気がすごいなと感じることが多くあります。一方で、私たち日本チームは、いつもどおりの平常心で試合に臨むことを心がけているように思います。普段の練習の中でよくコミュニケーションをとっていることもプレーの質向上に寄与していると感じます。
― 新しい挑戦には不安を伴うこともありますが、今まさに何かにチャレンジしようとしている人たちに向け、メッセージをお願いします。
私が大切にしている言葉は、(日本代表でも活躍したサッカー選手の)「成功にとらわれるな。成長にとらわれろ」という言葉です。チャレンジをしてたとえ成功しなくても、その失敗が経験となり、自分の中での成長につながります。私自身も成功や失敗という結果にとらわれてしまうことが多いのですが、努力の継続は確かな成長につながるはずです。